「正しい和食」認定制度の粗相を斬る(2006.12.11)
今から20年ほど前、単身アメリカに渡った。
ヒューストンからバスで数時間もかかるテキサスの山奥。
化学プラントの技術指導が目的だったのだが、行き帰りの道中はもちろん、
現地においても日本人は俺だけ、という寂しい一人旅だった。
そんな田舎町に、和食などあるわけない。
テキサスは牛だけはふんだんにあるようで、ほとんど毎日肉料理。
ハンバーガーを頼んでも、パンから草履のような牛肉がはみ出していた。
週末は従業員の家に招かれて、コテコテのメキシコ料理三昧。
こんな感じで3ヶ月を過ごし、帰る頃には細胞の隅々までカウボーイ。
で、帰国途中に立ち寄ったのがロサンゼルス。
久しぶりに見る日本人に、凍った体が解凍されていくような感じがした。
そこで目に飛び込んできたのが、これ。

矢も盾もたまらず、飛び込んだ。
すると、今度はこんな言葉が耳に飛び込んできた。
イラシャイマセ!
ま、味の方は、うどんだからそんなに違和感は感じなかったのだが、
久しぶりの日本食で期待が大きかっただけに、受けたショックも小さくなかった。
諸外国において、俺と同じような経験をしたことがある人は随分多いのではないかと思う。
思わず、「何これ?」と思うような和食に遭遇することは、少なくないだろう。
見た目、味など、とても許される範囲ではないのだが、
カリフォルニアロールなどを旨そうにパクついている絵を見ると、これもありかなと思ってしまう。
ところが、これに待ったをかけたのが、我らが農林水産省。
どうやら、和食の認定制度を導入するらしい。
WEBサイトでは、その目的として、
海外日本食レストランへの信頼度を高め、農林水産物の輸出促進を図るとともに、
日本の正しい食文化の普及や我が国食品産業の海外進出を後押しする。
と、書いてある。
まがい物を日本食として提供され、しかもそれらが受け入れられているのを見ると、
片腹痛いわ、と感じるのであろう。
国という単位だけではなく、県という単位で見た場合でも、それぞれ郷土料理というものがある。
その土地の文化や歴史から生まれた独特の料理なんだが、
特にそれらを生み出す土壌となっているのが、気候風土ではなかろうか。
厳密に言えば、沖縄料理は、沖縄の人が、沖縄で食ってこそ旨い。
気候風土の違いによって、獲れる食材も変わるし、保存方法も変わってくる。
料理方法も変われば、長年のうちにそれを賞味する舌の感覚も変わってくるだろう。
だから、四川料理を日本人の舌に合うようにマイルドにしたり、
インド料理を日本人の舌に合うようにアレンジしたりするのは決して悪いことではないと思う。
インド人がボンカレーをカレーと知らず、旨い、旨いと食っても何ら問題はないのだ。
俺自身は、このように味覚に関しては、アレンジすれば良いではないかというスタンスなんだが、
唯一気にかかるのが、日本食=健康食という構図である。
日本食がブームになっている根底には、この健康食という要因が少なからずあるのだ。
今から30年ほど前にマクガバンという上院議員が、
膨らみ続けるアメリカの医療費(当時25兆円)、そして何より国民の健康を憂い、
7年間の歳月と数千万ドルの国費を投入し、世界的規模で食事と健康・慢性疾患の関係を調査した。
その調査結果は5000ページにも及ぶものだが、それを親切に、たった1行で説明すると、
日本人の食事こそが、最も理想的である。
ということである。
ところが、日刊ゲンダイに掲載された事例では…。
みそをお湯で割っただけの『みそスープ』、うどんにギョーザ。
日中韓のメニューが交ざっていたり、何を食べても味付けが中華風、韓国風。
インスタントラーメンにとんかつをのせたり、『きつねラーメン』なんてメニューも。
エビフライとしか思えない『てんぷら』に、バナナのフリッターも付いてきた。
ロンドンで食べた『湯豆腐』は、なぜかカレー風味。
みたらし団子みたいに甘かったパリの『照り焼き』
白身魚のぶつ切りの上にパクチーがてんこ盛り。
味覚も相当飛んでいるが、これで健康食と言えるはずもなく。
農水省もきちんと、
健康のことを考えて、正しい和食を提唱していきたいのです。
と、言えばわかりやすいのに、
海外日本食レストランへの信頼度を高め、農林水産物の輸出促進を図るとともに、
日本の正しい食文化の普及や我が国食品産業の海外進出を後押しする。
のような、わかったような、わからんような目的を掲げるから、
アメリカのメディアから「国粋主義の表れ(ワシントンポスト)」と叩かれるのだ。
ま、仮に正調日本食を提供できたとしても、毎日脂肪三昧で、
週に1回程度、魚を箸でつまむ程度では健康もおぼつかないであろう。
結局、彼らが日本食は旨い、日本は良い国だと、満足して食ってくれればそれで良いのかも知れない。
と、なると最も困るのは、海外に出かける我々日本人になるのだろう。
なんせ、きちんと修行した日本人シェフがいる店は10%程度らしいのだ。
行けども、行けども、まがい物。
そのうち、暖簾をくぐるたびに、こんな一言を発するようになるのだろう。
ドモ、ドモ、コニチハ!
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